日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で、11月12日号より弊社代表取締役の岩佐琢磨による連載が始まりました。 日経産業新聞の許諾をいただき、岩佐の寄稿を転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の掲載は12月17日の予定です。
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グローバル・ニッチ戦略 「儲からない世界」勝負せず 今回から連載をさせていただきますCerevo代表の岩佐です。大手メーカーに勤めていましたが、世にまだない製品をつくりたいと思って2008年に創業しました。Cerevoと聞いてどんな会社なのだろうと弊社のwebサイトを見ていただいても、恐らくごく一部の方にしか理解できないような先鋭的な(世の中にない)、すべてのモノがネットにつながる「IoT」機器が並んでいると思います。まずここからお話してまいりましょう。
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弊社ではこの戦略を「グローバル・ニッチ戦略」と呼んでいます。わかりやすくいうと「世界にあまねく通用する商品だがニッチであり、いままでにないカテゴリーの商品に特化した戦略」というところでしょうか。 例えば弊社がまもなく発売する「XON SNOW-1(エックスオン・スノウ・ワン)」という、世界で初めての製品であろうIoTスノーボード用品「SNOW-1」は、スノーボードのバインディングです。スキーをなさる方はスキーの取付金具をイメージしてください。 40年間一切誰も電気を通したことがなかったバインディングというデバイスに、荷重センサーや曲げセンサーなどのセンサーを詰め込みます。専用のスマートフォン(スマホ)アプリと組み合わせて操作することで、スノーボードに乗っているスノーボーダーの体の動きやスノーボードの動きをデータとして取得し、スマートフォンアプリで可視化することでもっとスノーボードの上達が早くなったり、そのデータをインターネット上で共有して楽しめるという製品です。 スノーボードはメジャーですが、スノーボード用品は大変にニッチなマーケットであることも疑いようがありません。ではなぜ我々はそういったアプローチをするのか?
スタートアップ企業の鉄則として「大きなマーケットを狙え」というものがありますが弊社はそうしません。
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ハードウェア業界において、誰がみてもすぐにわかる大きなマーケットというのはスタートアップでは戦いようのないビッグプレイヤーの縄張りです。そしてそのビッグマーケットは多数の大企業による仁義なきコストダウン競争、湯水のようなプロモーション費投下競争の結果、大企業であっても撤退を余儀なくされるほどの「儲からない」世界が待っています。 ニッチなマーケットである限り、このようなことは起こりえません。もちろんニッチなマーケットでは数量をたくさん売ることができませんから、数を売ることができない、結果開発費すら回収できない……、というケースも考えられます。 しかし、ここが2010年代のものづくり、もの売りが面白いところです。 1カ国で100台しか売れなくても、100カ国で売れば1万台売れる。これは常日頃から言っているのですが、弊社が初めて製品を海外で販売した12年からわずか3年足らずで世界40の国と地域で販売をできているというのです。1カ国で250台売れるなら、40カで売れば同じく1万台なのです。 ただ、あくまでこれでは机上の空論、皮算用です。1億円の利益といっても開発費はどうなるんだ、ハードウェアをゼロから設計していたらすごいコストがかかるのだろうとか、40カ国で売るには相当なプロモーション予算が必要なはずだ、といったご意見が出てくるかと思います。このあたりのカラクリは、順に説明していければと思っています。
出典: 日経産業新聞 2015年11月12日掲載