日経産業新聞連載「VB経営AtoZ」」タグアーカイブ

日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第11回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第11回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。

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日経産業新聞連載「VB経営AtoZ」


takuma「CES」が映すトレンド
仏ハードウエアに存在感

米ラスベガスで開かれた世界最大の家電IT(情報技術)見本市「CES」が終わり、サンフランシスコに向かう飛行機の中で書いています。この連載も最後となりました。出展者側から見たCESを通して、今年の家電業界やあらゆるモノがネットにつながる「IoT」業界の動向を予測して締めたいと思います。

日本にいると、大手自動車メーカー・家電メーカーの製品記事ばかりが目に付きます。しかし実際の会場でそれらはごく一部でしかありません。面白いのは中堅、ベンチャーです。今回目立ったのはフランスのハードウェア・スタートアップの数と注目度。そして、米アマゾン・ドット・コムのクラウドベースの音声アシスタントサービス「アレクサ」が家電用のデファクトスタンダード(実質的な標準)の人工知能(AI)エンジン、音声コミュニケーションエンジンになったことでしょう。

フランスにはハードウェア・スタートアップの支援組織があり、スタートアップをまとめて見せ驚くほどの存在感を出していました。中国や韓国のスタートアップも、エッジが効いてデザインも美しいフランスにはかなわない。ここ2年ぐらいはフランスのスタートアップメーカーが世界をあっと言わせるでしょう。

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 会場全体を見渡して感じたのが、音声コントロール対応機器が増え、そのほとんどがアレクサに対応していたことです。「AI対応」という機器も聞いてみればアレクサを組み込んだだけという会社もたくさん。アレクサがオープン化され、誰もが対応周辺機器を作れるようになった結果です。

もちろん利用は無料。音声で動く冷蔵庫、自動車、ルーターなど多くのものが、アレクサをハードウエアやソフトウエアと連携させるためのAPIによって音声操作が可能になっていました。Cerevoもアレクサ対応は未定ですが、音声で動くカメラ付きデスクライトを発表しました。

アレクサは現時点では日本語非対応。日本だけで情報を得ているとグローバルでアレクサがこれほどぶっ飛んだ普及の兆しを見せていることが分からなくなりそうです。

中国系は今年も見たことがない会社がカメラメーカーの米ゴープロやウエアラブル端末メーカーの米フィットビット並みの大きさのブースを出していました。日ごろから中国の情報を仕入れていないと乗り遅れると強く感じさせられます。

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CerevoのVRシューズ「Taclim(タクリム)」に集まった海外メディア

CerevoのVRシューズ「Taclim(タクリム)」に集まった海外メディア

自社ブースでは、海外メディア各社の反応ポイントに驚きました。仮想現実(VR)への興味の強さです。世界初のVRシューズを発表したところ、ものすごい勢いで海外メディアが取材に来て「VRは海外なんだなあ」と強く感じました。

日本人来場者が例年より明らかに多く感じたのは良いポイントでした。来場者はグローバル思考になっているはず。来年、再来年に日本人が世界をあっと言わせる製品を展示することを楽しみに待ちたいと思います。

結びとなりましたが、1年以上にわたる長い連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。この連載をとおし、ハードウエア・スタートアップの裏側が少しでも 皆様に伝わったようでしたら幸いです。

出典: 日経産業新聞 2017年1月12日掲載

日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第10回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第10回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。

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日経産業新聞連載「VB経営AtoZ」


takuma「CES」まずは体験を
無数の出展物、商談も熱気

日本の展示会がどんどんと精彩を欠いていく中、「家電」という表現はもう古いかもしれませんが、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」やデジタルガジェットの展示会として世界のトップを独走しているのが毎年1月初旬に米ラスベガスで開かれるCESです。日本では「セス」と呼ばれることが多いですが、正しくは「シー・イー・エス」と発音します。Consumer Electronics Showの略……だったのも昔の話で、2016年からCESは「CES」であってコンシューマー・エレクトロニクス(家電)のショーではなく、コンシューマー・テクノロジー(民生技術)のショーだ、と1967年から50年以上も続く名称定義を主催者が変更してしまいました。このあたり実にアメリカです。

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 連載8回目で国際展示会の重要性について触れましたが「今IoT機器が世界で一番たくさん展示されている展示会はどこか?」と聞かれたら、間違いなくCESでしょう。東京ビッグサイトをゆうに超える大きさのコンベンションセンターを2つと、周辺の巨大ホテルを会場とする常識外れな規模の展示会です。企業への貸し出し面積に限った数値でも約23万平方メートルと、国内最大の家電・IoT展示会となる「CEATEC(シーテック)ジャパン」の5倍を軽く超えます。たとえ3日間フルに歩き回っても全てのブースを訪ねるのは困難なほどです。

CESは7千人を超えるプレス関係者が詰めかける展示会だけに主要な製品は何らかの記事になり、日本にいても記事でだいたい分かるから行く意味はないという人もいます。しかし、CESに行ったことがないという方は、まずは一度現地に行ってみることをお勧めします。記事だけでは伝わらない熱気や、記事にはならない無数の出展者、そして出展物。日本の展示会しか見たことがない人は来場者の顔ぶれにも驚くのではないでしょうか。

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 CES主催者の発表によると、出展者・来場者のうち30%が米国以外からの参加者です。実際に出展すると、この数値以上に米国以外からの参加者が多いなと感じます。おそらく1日だけ軽く参加するような地元の米国人に比べ、高い渡航費を払って遠路はるばる参加する海外からの参加者の方が、1人当たりの参加日数(会期は4日間あります)が多く、また商談にも熱が入るのでこのように感じるのでしょう。

英語が得意でない方も、旅の恥はかき捨てとばかり質問をしまくってみてください。「どこの国の会社なの?」「ベンチャーキャピタル(VC)の投資を受けているの?」「メーンのマーケットはどこなの?」「何人ぐらいの従業員がいるの?」などなど。あと面白い質問は「Do you have any distributor in Japan?(日本に販売代理店はあるの?)」です。世の中には日本に出荷していないハードウエア・メーカーがこんなにあるのかと驚くはずです。「No, but we’re looking for.(ないけど探してるんだ)」と答えてくれた出展者をリストアップして、彼らの日本進出を手助けする立場で個人事業を始めてみる、なんて起業も面白いかもしれません。

Cerevoはサンズ・エキスポにブースを構える予定です。CESにご来場の皆様は、ぜひ足を運んでいただければ、なるほどこの連載を書いている会社はこうやって海外ビジネスの橋頭堡(きょうとうほ)を築いているのだな、と肌で感じていただけるのではないかと思います。それではみなさん、良いお年ならぬ、良いCES 2017を。

出典: 日経産業新聞 2016年12月1日掲載

日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第9回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第9回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は12月1日の予定です。

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日経産業新聞連載「VB経営AtoZ」


takuma物流業務代行、ウェブで完結
越境超えるECサービス

前回はどうやって世界各地に散らばったニッチな需要に対して商品情報を提供していくかという広報・マーケティングの側面から話をしました。とはいえインターネットが普及するまでは、ルクセンブルグに住む人が弊社の商品情報を知ったとしても、よほどのマニアで日本に国際電話をかけて個人輸入でもしない限り、商品を手に入れる方法がありませんでした。

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 2016年のいまはこれが劇的にかんたんになった….と言うと、「電子商取引(EC)ですね」の一言で終わってしまうのですが、様々なECツールについて詳しい人はそう多くはありません。まず我々の業界で大きな革命となったのは、物流業務や顧客対応を代行する「フルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)」に代表されるウェブベースのフルフィルメントサービスの存在です。

通常のECでは、在庫品は販売業者の倉庫にあり、ウェブ上で注文が入ると販売業者にメールなどで通知が飛びピッキング(倉庫内で注文品を探して箱詰めする作業)と発送を行います。そのため販売業者は各国に倉庫を持たないといけませんし発送作業もそれぞれ委託する必要があります。毎月の発送数が少なければ、注文ごとの送料も高くなってしまいます。

フルフィルメントサービスの流れをFBAを例にして紹介しましょう。FBAでは、「アマゾン」が商品預かり(倉庫業務)、注文受け、ピッキング、発送全てを代行してくれます。ありがちな面倒な調整や交渉も不要です。ウェブに項目を入力し、利用規約に合意するのみで、一切の対面でのやり取りや電話もなく利用できるのです。

徹底した対面やりとりの削減は、FBA倉庫に商品を入庫する流れからもわかります。たとえそれが40フィートコンテナ2本(都心のマンション1室並みの広さです!)にもなる何千個もの、時価1億円もの商品であっても、ウェブ上の書式で個数とサイズや重量、品物の情報などを入力するだけ。次の画面で「これをパレットに貼り付けて送付してください」と記された伝票の画像が表示されておしまいです。

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 30年ほど前、通信販売で玩具を買いたいと言ったら「そんな怪しい仕組み、お金だけ取られて商品が送られてこないわよ」と私を諭した母にぜひ使わせてみたいものです。これが現在の越境ECを支えているシステムなのです。

他にも国際ECを支える新しいサービスは数え切れないほど登場しています。元グーグルのエンジニアが起業して作った米運送会社フレックスポートは航空便や海上便をオークション方式で安くオンラインで予約できますし、小規模事業者向けに配送業者をネットで手助けするサイト、シップワイヤー・ドット・コムは世界各国の倉庫をオンラインで借り、預けた在庫を自在に管理できます。モバイル決済の米ストライプはは自社サイトに世界各国からの多言語でのクレジットカード決済機能を埋め込むことができます。

似たようなサービスは日本国内にもたくさんありますが、グローバルに活用できるものはほとんどありません。海外発祥のこれらのサービスは展開範囲がまさに「グローバル」であり、Cerevoのように日本の小さな企業が世界55カ国以上で製品を販売していくにあたり、大きな力となっているのです。

次回は12月となりますので少し趣を変えて来年1月に米国で開かれる家電見本市コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)について語ってみたいと思います。

 

出典: 日経産業新聞 2016年10月20日掲載

日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第8回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第8回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は10月20日の予定です。

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日経産業新聞連載「VB経営AtoZ」


takuma国際展示会の効用
ネット民が世界に情報拡散

前回はニッチなネット・コミュニティが世界のさまざまな国に散らばるマニアたちをつないで大きなコミュニティとして機能するようになり、そこを狙って製品を投入するというスタイルについて説明しました。ネットとソーシャルメディアが生み出したあたらしい需要の形というわけです。

しかし、ネットのコミュニティは細かく分断されており、全てをメーカーである我々が日々チェックするというのは大変に困難です。またLINEやWeChatといったクローズドなコミュニケーションツールが爆発的に伸びている昨今、メーカーとしてユーザ候補者との(ネット上での)接触が難しいコミュニティーのほうが増えている印象を受けます。さらに多くのファンたちによるコミュニティーは、メーカーが商業色丸出しで乗り込んでくるのを嫌います。

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今年1月、米ラスベガスで開催された展示会「CES」のCerevoのブース

今年1月、米ラスベガスで開催された展示会「CES」のCerevoのブース

そこで重要になってくるのが「国際展示会への出展」です。海外で開かれている展示会でニッチな新商品を披露し、さまざまなニッチ・メディアが記事にすることで、結果多数のニッチ・コミュニティーに「記事で見たよ」と情報が伝播されてゆくのです。なんと前時代的な取り組みと侮るなかれ。こういった展示会はインターネット時代のいま、国際的なネット・コミュニティーにアプローチするもっとも楽な方法のひとつなのです。

ネット・コミュニティーの周辺には、ニッチなネット商業媒体が必ずあります。前回話題にした古い車をレストアする趣味人達のコミュニティーのまわりには、旧車のレストアに関連した情報を発信するウェブ媒体、そこまでとは行かなくともそういったジャンルの情報を専門的に扱うブログで生計を立てている人などが相当数いる時代になりました。メディアを持つことに初期コストがほぼかからないインターネット時代だからこそ、です。

そして、そういった方々は世界各国に存在していて、有名国際展示会が開催されるとなると、記事ネタを探して世界各国から繰り出してくるのです。家電業界最大の展示会であるCESは、そういったプレス登録者だけで6,000人を超えるというのだから驚きです。

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プレス参加者だけではありません、やはりそういったコミュニティには趣味が昂(こう)じて仕事にしてしまったような、同業他社の人もたくさんいらっしゃいます。そんな人達がブースに来て、写真を撮って、コミュニティに投稿してくれる。展示会というと地味なイメージかもしれませんが、実は裏のネット・コミュニティーとその周辺を取り巻く人々による大いなる広報合戦が繰り広げられているのです。

さて、情報は伝播した、と。とはいえ、ネット以前であれば「世界中さまざまな国に散らばる同好の士に(物理的な)製品を届ける」というのは難しいものでした。そこを解決に導いた、決済と物流のインターネット革命について、次回詳しくお話いたしましょう。

 

出典: 日経産業新聞 2016年9月1日掲載

日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第7回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第7回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は8月25日の予定です。

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日経産業新聞連載「VB経営AtoZ」


takumaニッチなコミュニティー
日本語の壁破り世界へ

ブログやソーシャルメディアの登場により誰もが気軽に世界中どこからでも情報発信できるようになった結果、ニッチな趣味の数だけメディアが乱立するようになりました。本紙読者の皆様だけでなく筆者もまったく知らないような深い趣味嗜好のメディアが、全世界では数万を超える単位で存在します。

それも「車が好き」といったレベルではなく、「GTA型のアルピーヌをレストアするのが趣味」だったり、あるいは「Aというアニメに登場するBというキャラクターをこよなく愛す会」といったような深さです。車好き、アニメ好きというカテゴリも十分にニッチではありますが、さらに特定の車種やキャラクターへ特化したコミュニティは「スーパー・ニッチ・コミュニティー」と言えるでしょう。

日本にいるとどうしてもこうしたニッチコミュニティーの力がピンとこないかもしれません。それは日本語という言語の壁があるからです。「攻殻機動隊」というアニメに登場する人気キャラクター、草薙素子の言葉を借りるなら、まさに「ネットは広大」であり、ひとたび日本語の壁を破って外に出れば、そこには信じられないほど広大なニッチ・コミュニティが広がっているのです。

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Cerevoではこういったきわめてニッチながらも、世界規模で展開されているコミュニティーで話題になり、認知され、購入される商品にフォーカスするという「グローバルニッチ戦略」を2012年に定め、この4年間を走ってきました。もちろん、特定の趣味嗜好やユースケースに特化して商品開発をすることは、商品開発側としては非常に「怖い」ことです。そんな狭いところを狙って、本当に数が売れるのか? という疑問をお持ちになる読者の方も多いでしょう。

とはいえ、本連載の過去を遡っていただければ、そのカラクリが見えてきます。もちろん10台程度しか売れないようでは問題ですが、きちんと狙うべき市場を見極めれば千台ぐらいは売ることができます。100万台は難しくとも、数万台規模の市場は十分に読める、そんなマーケットがあれば、いまのIoTビジネスは十分に仕掛けられるレベルに初期開発費を抑えることができます。

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また、プレイヤー(メーカー)数が少ない業界において新製品(新型ハードウェア)の登場は驚くほど歓迎されるということもあります。それは、プレイヤー数が少ない寡占市場では新製品が投入されにくく、あたらしい切り口の商品を投入するメリットが既存プレイヤーに少ないからです。場合によっては、あたらしい切り口の商品を投入するスキルを既存プレイヤーが持っていない場合もあります。結果、Cerevoが開発するIoT製品は世界のニッチなコミュニティのそこかしこで取り上げていただくことで、世界53カ国で売れるまでに成長しました。

この原稿はフランスのアニメ関係イベント「Japan Expo」でブースを構えた帰国便の中で書いていますが、ブースに来るフランスのアニメファンの人たちはみんな声を揃えて「ネットのコミュニティーで動画見たよ、これが実物か! 見たかったんだよ本物」と遊びに来てくれました。フランス語しか話せない方も多いが、片言で「YouTube」「Facebook」といったキーワードと身振り手振りで、Cerevoの製品を見たんだと伝えてくれることは大きな喜びです。

出典: 日経産業新聞 2016年7月14日掲載

日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第6回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第6回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は7月7日の予定です。

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日経産業新聞連載「VB経営AtoZ」


takumaニッチなモノ 世界に配信
ウェブメディア登場で一変

過去5回の連載で、なぜ少ない予算、短期間でものが作れるようになったかという「つくる」側について述べてきましたが、今回からは「つくる」と並んでグローバルニッチ戦略の両輪となる「売る」、なぜ従来より簡単に世界各国でモノを売れるようになったのかをお話しします。

インターネットが世界の産業構造を大きく変えたのはみなさんご存じと思いますが、Cerevoのようなスタートアップが、あらゆるモノがインターネットにつながるIoTデバイスを世界各国に販売できるようになった背景も、インターネットを抜きにして語ることはできません。

こう書くと「いまどきみんなネットでモノを買うからでしょう?」と思われるかもしれませんが、物事はそう単純ではありません。なぜなら、弊社では自社の電子商取引(EC)サイト経由での販売比率は、一部の特殊な商品を除けば全体の2割程度でしかないからです。

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 すべての鍵を握っているのは、ウェブでニュースを発信しているメディアです。インターネットが今ほどには普及していなかった20年前は、ニッチな情報を発信しているメディアはごくわずかでした。というのも、インターネットがない時代に最も安価にメディアを立ち上げるとしたら、雑誌を1誌刊行するぐらいしか方法がなかったからです。
当然ながら物理的なメディアである雑誌を世界各国に配送することなど、超大手の出版社でもなければ成し遂げることはできず、ましてや世界的に映像を配信するメディアを立ち上げるなど、いち個人や中小企業にできることではありませんでした。
これがインターネット時代となり、大きく変わりました。YouTubeをはじめとした映像メディアやブログ、Twitterといったさまざまな情報発信ツールを誰もが無料で使えるようになったいま、いち個人が部屋の中から生放送(ライブストリーミング)している映像を世界中どこからでも、誰でも見ることができるようになりました。

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 同時にソーシャルメディアが爆発的に成長し、世界中の人々がニッチな趣味嗜好・仕事などのテーマを軸につながりあい、情報を交換しあうようになりました。日本では1000人に1人しか楽しまないニッチな趣味は、日本全体なら10万人程度の規模ですが、これが世界規模で考えるなら、単純計算で600万人ものユーザがいる計算になります。
もちろんインターネット普及前には、600万人のターゲットがいたとしても、その全員にアプローチすることは大企業でなければできませんでした。しかし今ならソーシャルメディアを開いて数回クリックするだけで、世界中の同好の士が集うコミュニティを簡単に見つけだすことができます。
ニッチなテーマであっても600万人にアプローチできるなら、彼らに対してメディアを作ってみようかと思う人があらわれるのにそう時間はかかりませんませんでした。結果として個人のブログでちょっと情報発信という体から、本格的な企業が編集部員を抱えた本格的なWebメディアまで、世界中にインターネット経由でニッチな趣味嗜好について情報発信するメディアが星の数ほど生まれたのです。
次回はなぜウェブメディアやソーシャルメディア上のコミュニティが、グローバルニッチ戦略につながっていくかを説明します。

出典: 日経産業新聞 2016年6月2日掲載

日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第5回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第5回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は6月2日の予定です。

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takuma複雑化する家電用ソフト
OSS勃興、起業に追い風

「なぜ家電のグローバル・ニッチ戦略が成立するようになったのか」。今回はソフトウェア(以下、組み込みソフト)の観点から切り込んでまいりましょう。
組み込みソフトとは、コンピューターが入って複雑化したデジタル家電を動かすための制御用プログラムのこと。昔ながらの白熱電球は電気を通せば点灯し、電気を止めれば消える、というようにハードウェアだけで完結していますが、昨今流行りのスマートフォン(スマホ)から色や明るさを変えられるスマート電球ではこうはいきません。

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 電気のオン・オフだけでなく、スマホからこういう命令が来ていれば色を赤色に変える、こういう命令ならば明るさを30%に下げるといった動作も必要です。
カメラも同様で、昔は電気すら使わなかったものが、いまやデジタルカメラを1モデル開発するのに、カメラで使う部品も含めると何百人もの組み込みソフトエンジニアが1年以上、掛かりっきりになるような複雑な製品となりました。スマホと連動するとなるとこの工数はさらに増えることになります。
こうした複雑化する組み込みソフトの世界で、ハードウェア・スタートアップの救いの手となったのがオープンソース・ソフトウェア(以下OSS)の勃興です。OSSはその多くが無料でソースコードを公開しており、ライセンスによるものの改変や自社製品への組み込みを毎回の許可無く行ってもよいソフトウェアです。
小学生が作った3行だけのOSSもあれば、世界中でソフトウェア開発者のリソースを投入して作られたLinuxやNginxのようなOSSまでさまざまです。もともとPCの上で動作するものが主流でしたが、2000年以降は組み込みソフトとして動作するOSSが増えてきました。
ライセンスによって異なるという前提ではありますが、ここでOSSの基本原則をご説明しましょう。組み込みソフトでよく使われるLinuxカーネルは、「GNU GPLv2」というライセンスが採用されています。このライセンスは「GNU GPLv2で公開されているOSSを改変したら、改変後の産物(ソフトウェア)もGNU GPLv2ライセンスのOSSとして公開しなさい」と規定するものです。

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 Linuxは世界で最も普及している組み込みソフトウェアのOS、つまりパソコンにおけるウィンドウズのようなものだと思ってください。いち部品メーカーがLinuxのようなOSをいちから開発し普及させることはほぼ不可能ですから、多くの場合Linuxを改変して自社の部品上で動作するようにします。そして前述のGNU GPLv2ライセンスに従ってこのメーカーが改変したソフトウェアもOSSとして公開され、結果として非常に多くのOSSが世の中に公開されることになります。
LinuxというOSを例にあげましたが、画像処理や映像処理、音声処理、通信処理、どんな分野においてもOSSが存在しない分野などないほど、さまざまな組み込みOSSが公開されていて、実際に製品に組み込まれて使われています。
Linuxをはじめとしたオープンソースの完成度が上がったことで、部品メーカーは自分たちでソフトを作るのをやめたのです。ソフトウェアにおいても組み込みOSSをベースに改変したり組み合わせたりすることで、組み込みソフト開発工数を大幅に削減できるようになったのです。

出典: 日経産業新聞 2016年4月28日掲載

日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第4回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第4回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は4月28日の予定です。

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takuma中国EMSとの蜜月
投資、ビジョン共有で身内に

前回は、EMS過多の状態になって顧客の奪い合いが起きるようになり、中国のEMS事業者(香港、台湾、シンガポールなどアジア資本の中国工場を含む)の最小発注数量(MOQ)が下がってきた話をしました。これは2000年代後半から7~8年続いている傾向ですが、さらに2012年ごろからこの状況にさらなる変化が訪れました。
我々Cerevoのようなハードウェアをつくるスタートアップ企業に、これら中国EMS事業者から熱い視線が注がれるようになったのです。超大手EMSが手がけていたスタートアップ企業の製品が既存大手家電メーカーのシェアを切り崩し、生産量業界第1位となるような事態が起こりはじめたのです。
14年にNASDAQに上場したGoProはソニーやキヤノンを抜いて世界生産数1位となるビデオカメラを作り、15年に上場したFitbitは同じく世界生産数第1位となる歩数計を作りました。Blackmagic Designはプロ用映像機器の分野で、94fiftyはバスケットボール(競技ではなくボールそのものです!)の分野で大きな成長を遂げました。ビデオカメラをや歩数計といったマスだけでなく、ニッチなマーケットでもスタートアップが大手を打ち負かしてゆく事例がここ4~5年で続きました。

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 結果、大手EMSはその資金力をバックに、将来伸びるであろうスタートアップ企業への投資をしていこうと考え始めたのです。出資を行うだけでなく、自社(出資をしたEMSを指す)の工場で生産もサポートします。
目利きが重要ではありますが「これは行けるぞ」と思ったスタートアップ企業の株を持つことで、当該スタートアップ企業を製造面でサポートして成長させられるだけでなく、大きく成長させることができればキャピタルゲインが得られます。さらには自社の優良顧客として多額の製造費を落としてくれるようになるかもしれない。EMSにとってハードウェア系スタートアップ企業への投資は二重のうま味があるわけです。
世界トップクラスのEMSであるシンガポール拠点のEMS、Flextronicsはシリコンバレーに専門の投資部隊Lab IX(ラボ・ナイン)と、投資先の製品を製造する小規模製造に特化した工場を設けて積極的にスタートアップ企業発掘を行っています。鴻海(ホンハイ)精密工業は先だってベンチャーキャピタルファンド「2020」の存在を明らかにし、日本企業FOVEへの投資を行ったと発表しました。
ファンドを組成して投資をするほどの大手EMSでなくとも、「将来成長するであろうスタートアップ企業であれば、多少手間がかかる案件であっても受けてやろう』と思ってくださる工場がたくさんでてきたました。Cerevoが懇意にしていただいている中国EMSのほとんどとはそんな関係です。

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外国人というとどうしてもドライな関係、ビジネスライクな関係をイメージされる方が多いのですが、実際に何度も工場を訪れ、幾晩も酒を酌み交わして想いを語り、将来のビジョンを描いて話しあえば「身内」になってくれる。私はいつも「昭和の熱血サラリーマンみたいだ」と冗談めかして言っていますが、2016年の日本人のほうがドライな関係が好きなように感じます。そんな意欲あるEMSによって、世界のハードウェアスタートアップ企業は支えられているのです。

出典: 日経産業新聞 2016年3月31日掲載

日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第3回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第3回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は3月24日の予定です。

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takuma社外汎用工場の活用
少資本で家電メーカーに

1カ国で100台しか売れなくても、100カ国で100台ずつ売れば1万台のビジネスになる、という弊社のグローバル・ニッチ戦略。家電が従来よりも「簡単に」「社外の工場で」「小ロットで」作れるようになったことで、開発費を抑えられるようになったことが背景です。
前回は家電のデジタル化によって家電用の汎用部品が生まれ、汎用部品を組み合わせることで、少ない工数でユニークな家電製品を設計することができるようになったという内容でした。今回は「社外の工場」について紹介してまいりましょう。

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 前回お話しした家電のデジタル化による汎用部品の普及。これがEMSと呼ばれる、家電製品の製造を引き受ける汎用工場会社(自社工場ではないという意味で)の起爆剤となりました。
デジタル家電時代がくるまでは工場は基本、自社で持ち、部品の製造ノウハウ、組み付けのノウハウを「秘伝のタレ」として囲い込んでいた家電メーカー。しかし、汎用部品を組み合わせてしまえば製造できるようになってしまってからは、機動的な工員数・設備数の調整が難しい自社工場を廃して外部の工場へと製造を移管するケースが増えてきました。
最初のきっかけになったのは、デジタル家電のはしりともいえるデスクトップPCです。筐体から基板、電源装置、すべてのコネクタ類までが汎用品だったPCは汎用工場での製造に向いていました。2000年を過ぎてノートPC時代になったとはいえ、洗濯機や冷蔵庫といった白物家電と比べれば汎用部品のかたまりであったことは言わずもがなです。
ここのところシャープ買収の報道で名前をよく聞く世界最大のEMSである鴻海(ホンハイ)精密工業も、PC用の汎用部品であるコネクターの会社として有名になり、そこからPC組み立て工場として大きく成長しました。
デジタル化して汎用部品の集合体となった家電は、自社工場ではなく社外の汎用工場(EMS)で製造することが主流となりました。EMSのトップを走る鴻海の時価総額はソニーの1.5倍となりました。

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 鴻海の時価総額を見ればわかるように「EMSは儲かる」とわかったため、シンガポール、台湾、香港の資本のEMS(工場はほぼ全て中国)が雨後の竹の子のように勃興しました。その結果、面白いことに家電メーカーの数が増えるよりEMSのほうが急激に増えてしまい、世界中で客である家電メーカーを奪い合うようになってしまったのです。
そしてどうなったか。EMSが提示する最小発注数量をMOQ(ミニマム・オーダー・クオンティティー)といいますが、これがここ10年で大きく下がりました。たった1000台でも、たった500台でも、仕事をくれるならありがたい、という立場のEMSが増えてくれたのです。これEMSを使う側の家電メーカーにとって好都合です。より少ない資本で家電メーカーになれる、ということを意味するからです。
世の中には「いまどき家電はEMSに頼めば誰でも簡単に作れる」と言う人がいます。しかし、これは間違いで、EMS丸投げでいい製品はできませんし、EMSを使いこなせるスキルがなければ、そう簡単にはできません。しかし、こうは言えます。「昔と違って、EMSを使えば自社工場を持たずに小資本で家電を作れるようになった」と。

出典: 日経産業新聞 2016年2月18日掲載

日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第2回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第2回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は2月18日の予定です。

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takuma家電、汎用部品で設計可能
信号デジタル化で簡単に

前回は、1カ国で100台しか売れなくても、100カ国で売れば1万台のビジネスになる、という弊社のグローバル・ニッチ戦略についてさわりのところをお話ししました。
話の大筋はこうです。家電が従来よりも「簡単に」「社外の工場で」「小ロットで」作れるようになったことで、開発費を抑えられるようになった。また、世界各国に「簡単に」「すばやく」製品情報を伝えて、販売チャネルを構築できるようになった。これにより各製品ごとの1カ国あたりでの損益分岐点となる販売台数が少なくなった、という話です。

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 今回は「簡単に作れるようになった」背景である家電のデジタル化について、電子部品の観点から深掘りしてまいりましょう。
2000年を境に、デジタル家電という用語がさまざまなメディアで使われるようになりました。デジタル家電という言葉の本質は、家電内部での信号処理がデジタル化されたことを指すのですが、従来アナログが中心であった信号処理がデジタル化されたことで家電業界全体に起きたことは何だったのでしょうか。
まず誰にでもわかる例から。アナログ時代はカセットテープの品質が音質を分けましたが、デジタル時代は高品質なSDメモリカードでも低品質なSDメモリカードでも保存されたデジタルデータの品質に影響がなくなってしまいました。お使いのデジタルカメラのSDカードを安物に交換しても、撮影したデータそのものは高級なSDメモリーカードを使ったものと変わりがありません。
デジタル処理は容易に国際標準化でき、国際標準化された信号処理が生まれると、その信号処理のための汎用電子部品を作る部品メーカーが世界中で勃興しました。そして機器の中で部品から部品へと伝わる信号のほとんどが共通規格化されました。その結果、世界中の部品メーカーが販売しているデジタル家電向け部品が「汎用品」となり、皆さんが日々手にしている家電製品の多くは汎用部品の組み合わせによって設計可能となってしまったのです。

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 今みなさんがお使いの携帯電話のほとんどはメインプロセッサ(SPU)とカメラをMIPI―CSI規格で接続されていて、同じくディスプレーやタッチパネルはMIPI―DSI規格で接続されています。
デジタル家電になる前は、カメラを接続して画像を撮影したいと思ったら、まずは「映像を撮影するための素子を作る」ところから手がけるか、あるいは「素子から出力される、そのままでは映像として扱えない複雑なアナログデータを処理するための仕組みを考える」ところからのスタートでした。
今はMIPI―CSIバスを備えたARMコア・メインプロセッサと、MIPI―CSIバス接続のカメラモジュールを手に入れれば、事が終わってしまうのです。どちらもインターネットの通販サイトで個人であっても手に入れることができる時代になりました。
デジタル家電化されたことで、デジタル家電内の信号処理が規格化され、それら規格に対応した部品を作る部品メーカーが多数勃興した。結果デジタル部品の組み合わせによって簡単に家電製品を作ることができるようになり、電気回路設計部ならびに組み込みソフトウェア部における工数が激減した、というのが最初のきっかけです。  次回はEMSとオープンソースについて取り上げます。

出典: 日経産業新聞 2016年1月7日掲載

日経産業新聞で代表岩佐の連載を開始しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で、11月12日号より弊社代表取締役の岩佐琢磨による連載が始まりました。 日経産業新聞の許諾をいただき、岩佐の寄稿を転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の掲載は12月17日の予定です。

連載バックナンバーはこちらからご覧ください。

日経産業新聞連載「VB経営AtoZ」


takumaグローバル・ニッチ戦略 「儲からない世界」勝負せず 今回から連載をさせていただきますCerevo代表の岩佐です。大手メーカーに勤めていましたが、世にまだない製品をつくりたいと思って2008年に創業しました。Cerevoと聞いてどんな会社なのだろうと弊社のwebサイトを見ていただいても、恐らくごく一部の方にしか理解できないような先鋭的な(世の中にない)、すべてのモノがネットにつながる「IoT」機器が並んでいると思います。まずここからお話してまいりましょう。

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弊社ではこの戦略を「グローバル・ニッチ戦略」と呼んでいます。わかりやすくいうと「世界にあまねく通用する商品だがニッチであり、いままでにないカテゴリーの商品に特化した戦略」というところでしょうか。 例えば弊社がまもなく発売する「XON SNOW-1(エックスオン・スノウ・ワン)」という、世界で初めての製品であろうIoTスノーボード用品「SNOW-1」は、スノーボードのバインディングです。スキーをなさる方はスキーの取付金具をイメージしてください。 40年間一切誰も電気を通したことがなかったバインディングというデバイスに、荷重センサーや曲げセンサーなどのセンサーを詰め込みます。専用のスマートフォン(スマホ)アプリと組み合わせて操作することで、スノーボードに乗っているスノーボーダーの体の動きやスノーボードの動きをデータとして取得し、スマートフォンアプリで可視化することでもっとスノーボードの上達が早くなったり、そのデータをインターネット上で共有して楽しめるという製品です。 スノーボードはメジャーですが、スノーボード用品は大変にニッチなマーケットであることも疑いようがありません。ではなぜ我々はそういったアプローチをするのか?

スタートアップ企業の鉄則として「大きなマーケットを狙え」というものがありますが弊社はそうしません。

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ハードウェア業界において、誰がみてもすぐにわかる大きなマーケットというのはスタートアップでは戦いようのないビッグプレイヤーの縄張りです。そしてそのビッグマーケットは多数の大企業による仁義なきコストダウン競争、湯水のようなプロモーション費投下競争の結果、大企業であっても撤退を余儀なくされるほどの「儲からない」世界が待っています。 ニッチなマーケットである限り、このようなことは起こりえません。もちろんニッチなマーケットでは数量をたくさん売ることができませんから、数を売ることができない、結果開発費すら回収できない……、というケースも考えられます。 しかし、ここが2010年代のものづくり、もの売りが面白いところです。 1カ国で100台しか売れなくても、100カ国で売れば1万台売れる。これは常日頃から言っているのですが、弊社が初めて製品を海外で販売した12年からわずか3年足らずで世界40の国と地域で販売をできているというのです。1カ国で250台売れるなら、40カで売れば同じく1万台なのです。 ただ、あくまでこれでは机上の空論、皮算用です。1億円の利益といっても開発費はどうなるんだ、ハードウェアをゼロから設計していたらすごいコストがかかるのだろうとか、40カ国で売るには相当なプロモーション予算が必要なはずだ、といったご意見が出てくるかと思います。このあたりのカラクリは、順に説明していければと思っています。

出典: 日経産業新聞 2015年11月12日掲載