日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第3回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第3回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は3月24日の予定です。

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日経産業新聞連載「VB経営AtoZ」


takuma社外汎用工場の活用
少資本で家電メーカーに

1カ国で100台しか売れなくても、100カ国で100台ずつ売れば1万台のビジネスになる、という弊社のグローバル・ニッチ戦略。家電が従来よりも「簡単に」「社外の工場で」「小ロットで」作れるようになったことで、開発費を抑えられるようになったことが背景です。
前回は家電のデジタル化によって家電用の汎用部品が生まれ、汎用部品を組み合わせることで、少ない工数でユニークな家電製品を設計することができるようになったという内容でした。今回は「社外の工場」について紹介してまいりましょう。

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 前回お話しした家電のデジタル化による汎用部品の普及。これがEMSと呼ばれる、家電製品の製造を引き受ける汎用工場会社(自社工場ではないという意味で)の起爆剤となりました。
デジタル家電時代がくるまでは工場は基本、自社で持ち、部品の製造ノウハウ、組み付けのノウハウを「秘伝のタレ」として囲い込んでいた家電メーカー。しかし、汎用部品を組み合わせてしまえば製造できるようになってしまってからは、機動的な工員数・設備数の調整が難しい自社工場を廃して外部の工場へと製造を移管するケースが増えてきました。
最初のきっかけになったのは、デジタル家電のはしりともいえるデスクトップPCです。筐体から基板、電源装置、すべてのコネクタ類までが汎用品だったPCは汎用工場での製造に向いていました。2000年を過ぎてノートPC時代になったとはいえ、洗濯機や冷蔵庫といった白物家電と比べれば汎用部品のかたまりであったことは言わずもがなです。
ここのところシャープ買収の報道で名前をよく聞く世界最大のEMSである鴻海(ホンハイ)精密工業も、PC用の汎用部品であるコネクターの会社として有名になり、そこからPC組み立て工場として大きく成長しました。
デジタル化して汎用部品の集合体となった家電は、自社工場ではなく社外の汎用工場(EMS)で製造することが主流となりました。EMSのトップを走る鴻海の時価総額はソニーの1.5倍となりました。

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 鴻海の時価総額を見ればわかるように「EMSは儲かる」とわかったため、シンガポール、台湾、香港の資本のEMS(工場はほぼ全て中国)が雨後の竹の子のように勃興しました。その結果、面白いことに家電メーカーの数が増えるよりEMSのほうが急激に増えてしまい、世界中で客である家電メーカーを奪い合うようになってしまったのです。
そしてどうなったか。EMSが提示する最小発注数量をMOQ(ミニマム・オーダー・クオンティティー)といいますが、これがここ10年で大きく下がりました。たった1000台でも、たった500台でも、仕事をくれるならありがたい、という立場のEMSが増えてくれたのです。これEMSを使う側の家電メーカーにとって好都合です。より少ない資本で家電メーカーになれる、ということを意味するからです。
世の中には「いまどき家電はEMSに頼めば誰でも簡単に作れる」と言う人がいます。しかし、これは間違いで、EMS丸投げでいい製品はできませんし、EMSを使いこなせるスキルがなければ、そう簡単にはできません。しかし、こうは言えます。「昔と違って、EMSを使えば自社工場を持たずに小資本で家電を作れるようになった」と。

出典: 日経産業新聞 2016年2月18日掲載