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日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第11回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第11回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。

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日経産業新聞連載「VB経営AtoZ」


takuma「CES」が映すトレンド
仏ハードウエアに存在感

米ラスベガスで開かれた世界最大の家電IT(情報技術)見本市「CES」が終わり、サンフランシスコに向かう飛行機の中で書いています。この連載も最後となりました。出展者側から見たCESを通して、今年の家電業界やあらゆるモノがネットにつながる「IoT」業界の動向を予測して締めたいと思います。

日本にいると、大手自動車メーカー・家電メーカーの製品記事ばかりが目に付きます。しかし実際の会場でそれらはごく一部でしかありません。面白いのは中堅、ベンチャーです。今回目立ったのはフランスのハードウェア・スタートアップの数と注目度。そして、米アマゾン・ドット・コムのクラウドベースの音声アシスタントサービス「アレクサ」が家電用のデファクトスタンダード(実質的な標準)の人工知能(AI)エンジン、音声コミュニケーションエンジンになったことでしょう。

フランスにはハードウェア・スタートアップの支援組織があり、スタートアップをまとめて見せ驚くほどの存在感を出していました。中国や韓国のスタートアップも、エッジが効いてデザインも美しいフランスにはかなわない。ここ2年ぐらいはフランスのスタートアップメーカーが世界をあっと言わせるでしょう。

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 会場全体を見渡して感じたのが、音声コントロール対応機器が増え、そのほとんどがアレクサに対応していたことです。「AI対応」という機器も聞いてみればアレクサを組み込んだだけという会社もたくさん。アレクサがオープン化され、誰もが対応周辺機器を作れるようになった結果です。

もちろん利用は無料。音声で動く冷蔵庫、自動車、ルーターなど多くのものが、アレクサをハードウエアやソフトウエアと連携させるためのAPIによって音声操作が可能になっていました。Cerevoもアレクサ対応は未定ですが、音声で動くカメラ付きデスクライトを発表しました。

アレクサは現時点では日本語非対応。日本だけで情報を得ているとグローバルでアレクサがこれほどぶっ飛んだ普及の兆しを見せていることが分からなくなりそうです。

中国系は今年も見たことがない会社がカメラメーカーの米ゴープロやウエアラブル端末メーカーの米フィットビット並みの大きさのブースを出していました。日ごろから中国の情報を仕入れていないと乗り遅れると強く感じさせられます。

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CerevoのVRシューズ「Taclim(タクリム)」に集まった海外メディア

CerevoのVRシューズ「Taclim(タクリム)」に集まった海外メディア

自社ブースでは、海外メディア各社の反応ポイントに驚きました。仮想現実(VR)への興味の強さです。世界初のVRシューズを発表したところ、ものすごい勢いで海外メディアが取材に来て「VRは海外なんだなあ」と強く感じました。

日本人来場者が例年より明らかに多く感じたのは良いポイントでした。来場者はグローバル思考になっているはず。来年、再来年に日本人が世界をあっと言わせる製品を展示することを楽しみに待ちたいと思います。

結びとなりましたが、1年以上にわたる長い連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。この連載をとおし、ハードウエア・スタートアップの裏側が少しでも 皆様に伝わったようでしたら幸いです。

出典: 日経産業新聞 2017年1月12日掲載

日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第8回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第8回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は10月20日の予定です。

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日経産業新聞連載「VB経営AtoZ」


takuma国際展示会の効用
ネット民が世界に情報拡散

前回はニッチなネット・コミュニティが世界のさまざまな国に散らばるマニアたちをつないで大きなコミュニティとして機能するようになり、そこを狙って製品を投入するというスタイルについて説明しました。ネットとソーシャルメディアが生み出したあたらしい需要の形というわけです。

しかし、ネットのコミュニティは細かく分断されており、全てをメーカーである我々が日々チェックするというのは大変に困難です。またLINEやWeChatといったクローズドなコミュニケーションツールが爆発的に伸びている昨今、メーカーとしてユーザ候補者との(ネット上での)接触が難しいコミュニティーのほうが増えている印象を受けます。さらに多くのファンたちによるコミュニティーは、メーカーが商業色丸出しで乗り込んでくるのを嫌います。

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今年1月、米ラスベガスで開催された展示会「CES」のCerevoのブース

今年1月、米ラスベガスで開催された展示会「CES」のCerevoのブース

そこで重要になってくるのが「国際展示会への出展」です。海外で開かれている展示会でニッチな新商品を披露し、さまざまなニッチ・メディアが記事にすることで、結果多数のニッチ・コミュニティーに「記事で見たよ」と情報が伝播されてゆくのです。なんと前時代的な取り組みと侮るなかれ。こういった展示会はインターネット時代のいま、国際的なネット・コミュニティーにアプローチするもっとも楽な方法のひとつなのです。

ネット・コミュニティーの周辺には、ニッチなネット商業媒体が必ずあります。前回話題にした古い車をレストアする趣味人達のコミュニティーのまわりには、旧車のレストアに関連した情報を発信するウェブ媒体、そこまでとは行かなくともそういったジャンルの情報を専門的に扱うブログで生計を立てている人などが相当数いる時代になりました。メディアを持つことに初期コストがほぼかからないインターネット時代だからこそ、です。

そして、そういった方々は世界各国に存在していて、有名国際展示会が開催されるとなると、記事ネタを探して世界各国から繰り出してくるのです。家電業界最大の展示会であるCESは、そういったプレス登録者だけで6,000人を超えるというのだから驚きです。

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プレス参加者だけではありません、やはりそういったコミュニティには趣味が昂(こう)じて仕事にしてしまったような、同業他社の人もたくさんいらっしゃいます。そんな人達がブースに来て、写真を撮って、コミュニティに投稿してくれる。展示会というと地味なイメージかもしれませんが、実は裏のネット・コミュニティーとその周辺を取り巻く人々による大いなる広報合戦が繰り広げられているのです。

さて、情報は伝播した、と。とはいえ、ネット以前であれば「世界中さまざまな国に散らばる同好の士に(物理的な)製品を届ける」というのは難しいものでした。そこを解決に導いた、決済と物流のインターネット革命について、次回詳しくお話いたしましょう。

 

出典: 日経産業新聞 2016年9月1日掲載