日経産業新聞の連載「VB経営AtoZ」代表岩佐による第5回を掲載しました

日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第5回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は6月2日の予定です。

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日経産業新聞連載「VB経営AtoZ」


takuma複雑化する家電用ソフト
OSS勃興、起業に追い風

「なぜ家電のグローバル・ニッチ戦略が成立するようになったのか」。今回はソフトウェア(以下、組み込みソフト)の観点から切り込んでまいりましょう。
組み込みソフトとは、コンピューターが入って複雑化したデジタル家電を動かすための制御用プログラムのこと。昔ながらの白熱電球は電気を通せば点灯し、電気を止めれば消える、というようにハードウェアだけで完結していますが、昨今流行りのスマートフォン(スマホ)から色や明るさを変えられるスマート電球ではこうはいきません。

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 電気のオン・オフだけでなく、スマホからこういう命令が来ていれば色を赤色に変える、こういう命令ならば明るさを30%に下げるといった動作も必要です。
カメラも同様で、昔は電気すら使わなかったものが、いまやデジタルカメラを1モデル開発するのに、カメラで使う部品も含めると何百人もの組み込みソフトエンジニアが1年以上、掛かりっきりになるような複雑な製品となりました。スマホと連動するとなるとこの工数はさらに増えることになります。
こうした複雑化する組み込みソフトの世界で、ハードウェア・スタートアップの救いの手となったのがオープンソース・ソフトウェア(以下OSS)の勃興です。OSSはその多くが無料でソースコードを公開しており、ライセンスによるものの改変や自社製品への組み込みを毎回の許可無く行ってもよいソフトウェアです。
小学生が作った3行だけのOSSもあれば、世界中でソフトウェア開発者のリソースを投入して作られたLinuxやNginxのようなOSSまでさまざまです。もともとPCの上で動作するものが主流でしたが、2000年以降は組み込みソフトとして動作するOSSが増えてきました。
ライセンスによって異なるという前提ではありますが、ここでOSSの基本原則をご説明しましょう。組み込みソフトでよく使われるLinuxカーネルは、「GNU GPLv2」というライセンスが採用されています。このライセンスは「GNU GPLv2で公開されているOSSを改変したら、改変後の産物(ソフトウェア)もGNU GPLv2ライセンスのOSSとして公開しなさい」と規定するものです。

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 Linuxは世界で最も普及している組み込みソフトウェアのOS、つまりパソコンにおけるウィンドウズのようなものだと思ってください。いち部品メーカーがLinuxのようなOSをいちから開発し普及させることはほぼ不可能ですから、多くの場合Linuxを改変して自社の部品上で動作するようにします。そして前述のGNU GPLv2ライセンスに従ってこのメーカーが改変したソフトウェアもOSSとして公開され、結果として非常に多くのOSSが世の中に公開されることになります。
LinuxというOSを例にあげましたが、画像処理や映像処理、音声処理、通信処理、どんな分野においてもOSSが存在しない分野などないほど、さまざまな組み込みOSSが公開されていて、実際に製品に組み込まれて使われています。
Linuxをはじめとしたオープンソースの完成度が上がったことで、部品メーカーは自分たちでソフトを作るのをやめたのです。ソフトウェアにおいても組み込みOSSをベースに改変したり組み合わせたりすることで、組み込みソフト開発工数を大幅に削減できるようになったのです。

出典: 日経産業新聞 2016年4月28日掲載