日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第7回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は8月25日の予定です。
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ブログやソーシャルメディアの登場により誰もが気軽に世界中どこからでも情報発信できるようになった結果、ニッチな趣味の数だけメディアが乱立するようになりました。本紙読者の皆様だけでなく筆者もまったく知らないような深い趣味嗜好のメディアが、全世界では数万を超える単位で存在します。
それも「車が好き」といったレベルではなく、「GTA型のアルピーヌをレストアするのが趣味」だったり、あるいは「Aというアニメに登場するBというキャラクターをこよなく愛す会」といったような深さです。車好き、アニメ好きというカテゴリも十分にニッチではありますが、さらに特定の車種やキャラクターへ特化したコミュニティは「スーパー・ニッチ・コミュニティー」と言えるでしょう。
日本にいるとどうしてもこうしたニッチコミュニティーの力がピンとこないかもしれません。それは日本語という言語の壁があるからです。「攻殻機動隊」というアニメに登場する人気キャラクター、草薙素子の言葉を借りるなら、まさに「ネットは広大」であり、ひとたび日本語の壁を破って外に出れば、そこには信じられないほど広大なニッチ・コミュニティが広がっているのです。
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Cerevoではこういったきわめてニッチながらも、世界規模で展開されているコミュニティーで話題になり、認知され、購入される商品にフォーカスするという「グローバルニッチ戦略」を2012年に定め、この4年間を走ってきました。もちろん、特定の趣味嗜好やユースケースに特化して商品開発をすることは、商品開発側としては非常に「怖い」ことです。そんな狭いところを狙って、本当に数が売れるのか? という疑問をお持ちになる読者の方も多いでしょう。
とはいえ、本連載の過去を遡っていただければ、そのカラクリが見えてきます。もちろん10台程度しか売れないようでは問題ですが、きちんと狙うべき市場を見極めれば千台ぐらいは売ることができます。100万台は難しくとも、数万台規模の市場は十分に読める、そんなマーケットがあれば、いまのIoTビジネスは十分に仕掛けられるレベルに初期開発費を抑えることができます。
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また、プレイヤー(メーカー)数が少ない業界において新製品(新型ハードウェア)の登場は驚くほど歓迎されるということもあります。それは、プレイヤー数が少ない寡占市場では新製品が投入されにくく、あたらしい切り口の商品を投入するメリットが既存プレイヤーに少ないからです。場合によっては、あたらしい切り口の商品を投入するスキルを既存プレイヤーが持っていない場合もあります。結果、Cerevoが開発するIoT製品は世界のニッチなコミュニティのそこかしこで取り上げていただくことで、世界53カ国で売れるまでに成長しました。
この原稿はフランスのアニメ関係イベント「Japan Expo」でブースを構えた帰国便の中で書いていますが、ブースに来るフランスのアニメファンの人たちはみんな声を揃えて「ネットのコミュニティーで動画見たよ、これが実物か! 見たかったんだよ本物」と遊びに来てくれました。フランス語しか話せない方も多いが、片言で「YouTube」「Facebook」といったキーワードと身振り手振りで、Cerevoの製品を見たんだと伝えてくれることは大きな喜びです。
出典: 日経産業新聞 2016年7月14日掲載