日経産業新聞の連載コーナー「VB経営AtoZ」で弊社代表取締役の岩佐による寄稿第6回を、日経産業新聞の許諾をいただき転載いたします。本連載は5週おきに掲載され、次回の紙面掲載は7月7日の予定です。
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過去5回の連載で、なぜ少ない予算、短期間でものが作れるようになったかという「つくる」側について述べてきましたが、今回からは「つくる」と並んでグローバルニッチ戦略の両輪となる「売る」、なぜ従来より簡単に世界各国でモノを売れるようになったのかをお話しします。
インターネットが世界の産業構造を大きく変えたのはみなさんご存じと思いますが、Cerevoのようなスタートアップが、あらゆるモノがインターネットにつながるIoTデバイスを世界各国に販売できるようになった背景も、インターネットを抜きにして語ることはできません。
こう書くと「いまどきみんなネットでモノを買うからでしょう?」と思われるかもしれませんが、物事はそう単純ではありません。なぜなら、弊社では自社の電子商取引(EC)サイト経由での販売比率は、一部の特殊な商品を除けば全体の2割程度でしかないからです。
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すべての鍵を握っているのは、ウェブでニュースを発信しているメディアです。インターネットが今ほどには普及していなかった20年前は、ニッチな情報を発信しているメディアはごくわずかでした。というのも、インターネットがない時代に最も安価にメディアを立ち上げるとしたら、雑誌を1誌刊行するぐらいしか方法がなかったからです。
当然ながら物理的なメディアである雑誌を世界各国に配送することなど、超大手の出版社でもなければ成し遂げることはできず、ましてや世界的に映像を配信するメディアを立ち上げるなど、いち個人や中小企業にできることではありませんでした。
これがインターネット時代となり、大きく変わりました。YouTubeをはじめとした映像メディアやブログ、Twitterといったさまざまな情報発信ツールを誰もが無料で使えるようになったいま、いち個人が部屋の中から生放送(ライブストリーミング)している映像を世界中どこからでも、誰でも見ることができるようになりました。
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同時にソーシャルメディアが爆発的に成長し、世界中の人々がニッチな趣味嗜好・仕事などのテーマを軸につながりあい、情報を交換しあうようになりました。日本では1000人に1人しか楽しまないニッチな趣味は、日本全体なら10万人程度の規模ですが、これが世界規模で考えるなら、単純計算で600万人ものユーザがいる計算になります。
もちろんインターネット普及前には、600万人のターゲットがいたとしても、その全員にアプローチすることは大企業でなければできませんでした。しかし今ならソーシャルメディアを開いて数回クリックするだけで、世界中の同好の士が集うコミュニティを簡単に見つけだすことができます。
ニッチなテーマであっても600万人にアプローチできるなら、彼らに対してメディアを作ってみようかと思う人があらわれるのにそう時間はかかりませんませんでした。結果として個人のブログでちょっと情報発信という体から、本格的な企業が編集部員を抱えた本格的なWebメディアまで、世界中にインターネット経由でニッチな趣味嗜好について情報発信するメディアが星の数ほど生まれたのです。
次回はなぜウェブメディアやソーシャルメディア上のコミュニティが、グローバルニッチ戦略につながっていくかを説明します。
出典: 日経産業新聞 2016年6月2日掲載